株式会社アストロスケールホールディングス

宇宙をクリーンに。

すみだから世界初の宇宙ゴミ除去衛星開発に挑む、アストロスケール

画像提供:株式会社アストロスケール

宇宙開発が始まってから半世紀あまり。いよいよ有人宇宙旅行が現実味を帯びてきた中、見過ごせない「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」による環境問題が起きています。今、スペースデブリ除去を専門とする世界初の企業として宇宙の環境問題に挑む会社があります。それが墨田区錦糸にある株式会社アストロスケールホールディングスです。同社の子会社で人工衛星の製造・開発を担う株式会社アストロスケールでゼネラルマネージャーを務める伊藤美樹さんに、「SDGs」をテーマに持続可能な宇宙環境をつくるために挑戦する同社の想いや目指すことを伺いました。

墨田区から、持続可能な宇宙環境を目指す

今、宇宙がゴミで溢れているのをご存知でしょうか。通信やGPS、航空機の運航、気象予測、農業や漁業……。私たちは、あらゆる場面で人工衛星の恩恵を受けて生活をしていて、もはや人工衛星なしでは生活が成り立たないといっても過言ではありません。一方で、これまで民間企業などが次々に宇宙開発を行い、数々の人工衛星やロケットが打ち上げられた結果、役目を終えた衛星やそれらが衝突してできた小さな破片などが地球の周りに無数に存在する、宇宙のゴミ問題が起きています。

画像提供:株式会社アストロスケール

そんな宇宙の現状に対して、持続可能な宇宙環境を目指すために挑戦しているのが、2013年創業のアストロスケールです。宇宙に関する専門家ではなかった創業者兼CEO(最高経営責任者)の岡田光信さんが、なかなか解決に向けて進捗していない宇宙のゴミ問題に危機感を抱き、同社を立ち上げました。

創業以来、今後打ち上がる人工衛星が寿命を迎えたり故障したりした際に除去するEOL(End-of-Life)サービスや、既存デブリを除去するADR(Active Debris Removal)サービス、衛星などの観測や点検を行うISSA(In-Situ Space Situational Awareness)サービス、そして衛星寿命延長をするLEX(Life Extension Service)サービスなど、軌道上サービスの実現を目指して技術開発を進めてきました。

画像提供:株式会社アストロスケール

2021年3月には、民間企業で世界初となるスペースデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d (エルサディー)」の打上げ、軌道投入に成功させました。持続可能な宇宙環境を実現するために大きく前進させたとして、世界中から注目を集めています。

アストロスケールは、墨田区に本社そして研究・開発拠点を構えています。国内で本社候補地を探した中で、海外拠点との往来も多い同社が空港からのアクセスのよさや滞在のしやすさを必要条件としつつ、墨田区を拠点に選んだのは「ものづくりのまちであり、義理人情に厚い人たちが魅力的だったからです」と伊藤さんはいいます。町工場が集積する墨田区には、製造に関して受け入れられる環境があったことが決め手となったようです。

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現在、シンガポールや英国、米国、イスラエルなどグローバルに事業展開をしており、各拠点で合わせて200名以上の社員が働いています。技術者が社員の7割近くを占め、日々、研究・開発にあたっています。

画像提供:株式会社アストロスケール
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スペースデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」が果たす役割

スペースデブリは、役目を終えた人工衛星やロケットの上段、また、それらの衝突によって小さな破片になったもの。自転しながらおよそ秒速7kmで地球の軌道上を周回し、たとえ小さな破片でも、衝突すれば金属も貫通するほどの威力。デブリ除去となれば「高速道路を走る車を手で掴みにいくようなもの」と伊藤さんは除去の難しさを話します。1mm以上のデブリは、1億個以上もあるといわれています。宇宙開発の進展で年々増え続けているため、将来的には宇宙にある機器の損害やデブリの地球への落下リスク、宇宙計画の中止などが起こる可能性があり、人類が宇宙に関する活動ができなくなることが危惧されています。

未来への取り組みの妨げにならないようにするため、伊藤さんは「宇宙環境の維持には、『スペースデブリの回収』と『デブリを増やさないこと』が大切です」と話します。2021年3月にアストロスケールが民間企業として世界初の打ち上げを成功させたスペースデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」は、デブリをこれ以上増やさないために捕獲実証をするための衛星です。

画像提供:株式会社アストロスケール

縦・横約60cm、奥行き110cmの箱形で、重さは175kgです。太陽光パネルを翼のように広げて航行しながら、スペースデブリの回転速度を認識して接近し、磁石によって捕獲したあとに大気圏に落ちて燃え尽きさせることで宇宙空間に残さないようにします。

  

これまで世界各国で、デブリをキャッチする技術開発はされてきたものの、自転するデブリに合わせてキャッチする成功事例がなく、アストロスケールはそれを可能にする実験機をつくり打ち上げに成功したため、世界中から注目されているのです。

私たちの生活で出されたゴミを処分するのと同じように、宇宙のゴミも同様に使った場所を掃除する人が必要です。アストロスケールの挑戦は宇宙の課題解決に向けて大きく前進させました。

自動車業界などでも使用済み自動車の再資源化に関する法律が定められ、使用済みの機器や部品を再利用する動きも広がっていますが、宇宙業界も同様です。「ELSA-d」が成功すれば、スペースデブリ回収の技術が確立されることになりビジネスとして成立するようになっていきます。先々には回収した衛星を整備して再利用する取り組みもできるようになり、さらに宇宙における持続可能な取り組みを加速させることができるとアストロスケールは先を見据えています。

2030年に向けたアストロスケールのSDGs

人工衛星などの打上げは、2030年までに現在の15倍の量になるとされていてスペースデブリ問題は待ったなしの状況です。アストロスケールは、現状に対して技術開発で解決を図るとともに、持続可能な宇宙環境をつくるため発信や教育にも注力し始めています

さまざまな取り組みを推進していくために、スペースデブリ除去の認知を広げるプロジェクトが2021年2月に始動しました。それが「#SpaceSustainability(スペースサステナビリティ)」です。スペースデブリがもたらす日常生活への影響や人類の将来への影響を見据えて、「“人と地球と宇宙を持続可能にする”ために、スペースデブリについて多くの人々と共有し、解決していくこと」を活動の目的としています。

◆スペースデブリ問題を周知するプロジェクト「#️SpaceSustainability」

画像提供:株式会社アストロスケール

情報発信とコミュニティーづくりとして、スペースデブリ基礎情報や最新ニュースなどを届けるWebサイトを立ち上げ、さまざまな情報を発信しています。また、宇宙飛行士の山崎直子さんや芸人でコメンテーターとしても活躍するパトリック・ハーランさん、漫画「宇宙兄弟」のキャラクターがスペシャルサポーターに就任し、講演やイベント、動画配信などを通してスペースデブリ問題の重要性を伝えています。

◆宇宙教育の拠点にもなる「すみだラボ(仮)」

「将来の世代の利益のための安全で持続可能な宇宙開発。」をビジョンとして掲げるアストロスケールは、技術開発だけでなく、次世代に向けた教育にも力を入れていこうとしています。大型デブリ除去を目指すプロジェクトや衛星寿命サービス「LEX」の技術開発などの事業拡大に向けて、現在の墨田区の本社・開発拠点を2023年に新たに「すみだラボ(仮称)」へ拡張させることが決まっています。これを機に拠点をよりオープンな場所にし、「私たちの取り組みを紹介するとともに、衛星の製造工場を一般見学できるようにして宇宙開発の本物の現場を見てもらえるようにしたいと思っています」と伊藤さんは力強く話します。

画像提供:株式会社アストロスケール

「宇宙空間は日本がビジネスを展開するうえで必要な資源になってきている」と伊藤さんが話す通り、日本において人工衛星データの活用が本格化し始め、宇宙ビジネスは加速していくことになるでしょう。だからこそ、私たち人類は宇宙空間を使う責任として、宇宙環境を理解し持続可能にするための行動をする必要があるのです。

アストロスケールは、技術の追求だけでなく宇宙に関する本物の情報を公開することで、一人ひとりが宇宙の未来にアクションを起こしていくきっかけになってほしいと思いを込めて、拠点を拡張させようとしています。

子どもたちへのメッセージ

「今、私たちは誰もやったことがない分野に挑戦しています。さまざまな壁が立ちはだかりますが切り開いていくのは面白いです。無理だと思っても「できる」と信じる気持ち、そして情熱を持つことが大事だと思います。宇宙はこれからみんなが仕事をする場所になっていきます。一緒に宇宙の仕事をしましょう!」(伊藤)

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<プロフィール>

伊藤美樹(いとう・みき)

株式会社アストロスケール ゼネラルマネージャー

本大学大学院航空宇宙工学専攻修了後、内閣府最先端研究開発支援プログラム「(通称)ほどよし超小型衛星プロジェクト」にて2機の超小型人工衛星「ほどよし3号機」「ほどよし4号機」の熱・構造設計、試験業務に従事する。その後、およそ1年間、外国人留学生の衛星製造の指導や開発サポート業務を経て、2015年4月アストロスケール日本R&Dに入社、同社代表取締役社長に就任。2018年には、「Forbes Emergent 25」や日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018」に選出、アストロウーマン賞を受賞。

2019年2月、アストロスケールグループ組織編成に伴い、同社ゼネラルマネージャーに就任。