【イベントレポート】
すみだを知り、ウィキペディアですみだの情報をアップデート!
墨田区で初開催「第1回ウィキペディアタウンすみだ」
2022年6月18日(土)、すみだすみずみほりおこし隊(すみほり隊)主催のイベント『第1回ウィキペディアタウンすみだ』が、すみだ北斎美術館で開催されました。
ウィキペディアタウンは、まち歩きと体感・収集した地域の魅力ある情報をインターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア」の記事を編集して発信ができるワークショップ型イベントです。地域内外から集まり自分の手で地域の魅力を情報としてアップデートするので、地元住民たちがまちへの愛着を高めたり、地域外の人との交流の場になったりと、地域のつながりを感じられるイベント。全国各地で開催されています。
そんなウィキペディアタウンが、墨田区で初めて開催されました!
当日の模様をレポートします。
◆イベント概要◆
10:00〜 主催者挨拶
10:10〜11:00 まち歩き 江島杉山神社を見学
11:00〜12:00 ウィキペディアの説明、編集タイム
12:00〜13:00 昼食
13:00〜15:00 ウィキペディア編集タイム(文献調査・記事作成)
15:00〜15:30 編集成果の発表
ウィキペディアタウンのプロジェクトは、2012年にイギリスでスタートしたのがきっかけなのだそうです。日本では2013年から開催され、まちの情報を調べ、収集した内容を自分で要約してウィキペディア上に掲載する、まち歩き・編集イベントとしてこれまで全国各地で実施されてきました。
そんなウィキペディアタウンの墨田区での初開催にあたっては、2021年2月と11月にプレイベントを実施していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大によって公開イベントが実施できずにいました。ようやく今回、公開イベントとして開催することができました。
講師にウィキペディア日本語版管理者のあらいしょうへいさんをお迎えし、初心者からベテランのウィキペディアンまで、スタッフを含め約20名が集結しました。
まち歩きで、江島杉山神社へ
主催者の挨拶のあと、早速まち歩きがスタートしました。目指すは「江島杉山神社」です。
ガイドとしてまち歩きのアテンドをしていた一般社団法人北斎振興会代表で、元すみだ北斎美術館の学芸員・五味和之さんが、信号待ちをする度にさまざまなすみだの歴史や文化の話を聞くこともでき、参加者たちの熱量も上がっていくのを感じました。
以前、別のウィキペディアタウンに参加した経験がある長沖さんは、最初はウィキペディアの記事を自分が編集するのは難しいのではと参加に抵抗があったそうですが、やってみると面白いと気づけたのだそうです。
「今回、なかなか来られなかった墨田区に訪れる機会にもなって、墨田区のまちの雰囲気や情報を知ることができて嬉しいですよね」とウィキペディアの編集に楽しみを見出した様子。
約20分程歩いて、江島杉山神社に到着しました。
江島杉山神社は、日本三大弁天の一角とされる江ノ島にある江島神社の弁財天を勧請(本来祀られている神の分霊を迎えて、新たに設けた分祀の社殿に迎え入れること)して、1693年に創建された神社です。
5代目将軍・徳川綱吉が、自身の病気の治療にあたってくれた鍼治療の医師・杉山和一が江ノ島まで弁財天を拝みに行っていることを知り、綱吉の敷地に分霊を迎えて祀ることを許可したことから、杉山和一の遺徳を讃えて「江島杉山神社」となり現在に至っています。神社内には鍼灸院や杉山和一の資料を集めた記念館などが併設されています。
神社到着後、わずかな時間でしたが、参加者たちはさまざまな情報を写真に納めたり、メモをしたりと熱心に収集していました。
編集方針を理解し、いざ編集
会場に戻ってくると、ここからはウィキペディアの記事をアップデートするための作業に入っていきました。
参加者の中には、ウィキペディア初心者とウィキペディアンが混在していたので、初心者の人たちには講師のあらいさんから、編集方針や個人やグループワークを通して情報収集から整理の仕方、記事執筆、投稿のレクチャーを受けるところから始めていきました。
ウィキペディアは、所蔵資料や史料を活用して、確かな情報を元に全世界に発信する形で大切な情報をアップデートさせながらアーカイブすることができます。そのため、ウィキペディアタウンのような地域で開催されるイベントは、地域内のコミュニケーションの活性化や地域振興につながるといった効果が期待されるのです。
信頼できる情報を可能な限り集約していく、ということがまずウィキペディアンへの第一歩。最初はどこをピックアップすればよいのか迷う方もいます。そのため、要約に慣れるための簡単なワークも行いました。
ウィキペディアの三大方針として「中立的な観点」「検証可能性」「独自研究は載せない」というのが示されました。
今回は墨田区内の情報について興味・関心あることを調べて記事を編集することになり、大きなテーマでしたが参加者たちはそれぞれこの日のまち歩きで感じたもの、興味関心事から選んでいきました。
あっという間に午前の部が終わり、昼食へ。昼食は、運営スタッフの鈴木さんらが作成した手づくりのおすすめ飲食店MAPをもらい、参加者はそれぞれ行きたいお店で墨田の昼食を楽しみました。
文献調査から記事編集作業のもくもくタイム
午後は、もくもく編集作業。
参加者は「江島杉山神社」「すみだ北斎美術館」「すみだトリフォニーホール」「その他」の4つの中から1つ選び、グループに分かれてウィキペディア記事の編集を行っていきました。
途中、五味和之さん(一般社団法人北斎振興会代表)によるミニ講座「北斎とすみだ」も開催され、墨田区の各地名の由来や歴史、文化を学べる講義がありました。ちょっと誰かに話したくなる墨田区のネタが増えたと思います。
資料を読み込み、内容を抽出して自分なりにまとめてウィキペディアの記事を編集していきます。資料の出典も明記して、いつ・誰が書いたものかわかるようにするので、別の読者が気になった場合には確認がしやすくなります。
「すみだトリフォニーホール」についての情報を編集するため文献調査をしていた男性ウィキペディアンは、以前から音楽の中でも特に「指揮者」について興味・関心が高く、これまでのウィキペディアタウンでも音楽に関する情報を中心にウィキペディアの編集をしてきたのだそう。今回は墨田区での開催ということで、指揮者の情報からウィキペディアの「すみだトリフォニーホール」のページを編集しました。
会場に用意された文献を次々と読み調べ、まとめていたウィキペディアンたちは、とにかく情報の抽出が速いのが印象的でした。 事前に調べておいてイベント当日に深掘りをしつつ、写真の更新を中心に取り組む人、一気にメモをして一度下書きをしてから記事の更新をする人、最初から記事を直接編集していく人ーー。
ウィキペディアンたちの編集プロセスはさまざまなようです。編集の仕方が多様なのも面白い点です。 情報の収集力、要約力、執筆力などが磨かれていくので、学習能力も高まっていきそうです。
すみだの魅力を遺す価値
編集作業の2時間はあっという間に過ぎていきました。
たった1行の文章、1枚の写真を編集するだけでもアップデートできる気軽さはありますが、のちに全世界の人が見られるようになると考えるとどこか緊張感があります。発信は確かな情報を元に届けることの大切さを学べます。
そして、わずかな情報のアップデートでも編集したものがページに反映されると達成感があり、形に残ることが参加者たちの学習意欲をより高めているようです。
この日は「江島杉山神社」「弥勒寺(墨田区)」「すみだ北斎美術館」「すみだトリフォニーホール」「江東楽天地」「隅田川両岸景色図巻」など、新規で作成された記事、既存情報に加筆された記事が約15件できました。
近々、授業でウィキペディアタウンを実施するため、体験として参加した埼玉県の教員、石田美佳さんは初めてウィキペディアの編集をしたのだそう。
「調べて、考えて、書くというプロセス、そしてアップロードして公開されるという成果が見え
るものは、子供たちにとってもよい経験になると思います」
想像以上に気軽に編集に取り組めることがわかり、学生たちにも有意義な学習、探究の時間になると実感したようです。
「ウィキペディアの編集は継続的にできることなので、ネタが尽きることがないんですよね。今日も記事の成果は多かった。やっていくと『あれもやりたい、これもやりたい』という思いは出てくると思います」と、イベントを終えて講師のあらいさんもウィキペディアの魅力を再認識したようです。
ウィキペディアは知が集積するプラットフォーム。
インターネットを利用する誰もが自由に編集できる特性を活かし、地域の住民やその地域に興味・関心のある人たちが自ら調べ、情報発信をする。記事の編集過程では、実際に地域を自分の足で歩き、調べ、参加者たちと交流しながら体験する地域の魅力に腹落ちする。
緑図書館の三浦さんは運営を終えて「次回実施するときには今回以上にさまざまなスポットを巡れるようにするなど、いろいろと取り組みをしていきたい」とウィキペディアタウンの可能性を改めて確信していました。
次回は未定ですが、きっとまた墨田区で新たなウィキペディアンが誕生することでしょう。
ウィキペディアタウンすみだは、知的探究心を満たし、地域振興につながる大人がわくわくできるイベントでした。