DOC Japan株式会社
原料から世界のトレンドをつくる。
日本人の感性を活かす化粧品原料メーカーの取り組み
「新しい経験や感動につながる感性価値の提案を通じて、人びとの幸せと喜びに貢献する」を使命に、化粧品の原料をつくる、DOC Japan。国内外のパートナー企業とともに取引先の化粧品会社のニーズに合った原料を届けるため、日々研究・開発を行っています。代表取締役社長の大川彰子さんに、原料メーカーとして持続可能なものづくりをするために大切にする考えやものづくりのやりがいをお聞きしました。
「感性」を大切にした原料づくり
DOC Japanは、化粧品やシャンプーなどのヘアケア用品、ボディウォッシュなどに使用される原料を開発、製造をしています。代表の大川さんが外資系化粧品原料メーカーで得た知識と経験を活かし、2011年に創業しました。
日々、使用されるシャンプーやコンディショナー、洗顔料などは、最適化された原料を複数配合することでつくられています。原料によって、「サラサラ」「ツルツル」といったさまざまな感触や効果をもたらすので、どのような原料を配合するかということは大変重要になってきます。
DOC Japanは「日本人の感性」を大事にした原料づくりをするのが特徴的です。日本人は海外の人と比較しても「サラサラ」「ツルツル」のような感覚が敏感で、感性の豊かさがよい原料づくりにつながっています。
「日本人は四季折々の変化を楽しむことであるとか、お茶文化といったものがあります。こうした文化が、海外の人にはないユニークな感性を磨いているのだと思います」と大川さんは日本人の特徴を捉えています。
肌が白くなるというような薬効ではなく、クリーミーな泡によってなめらかな肌になるというような感覚的な価値を付与する原料を中心に製造販売しているのです。
感覚に訴えるものを製造するため、説明をしてすぐにつくれるものではないため、検証を繰り返しながら製造にあたります。そのため、委託製造先の企業は「素原料自体を十分に確保できる会社であることや、日本人の感覚を受け取って対応してくれるパートナーを選定しています」と大川さんは話します。
そのため、日本人であることや日本という地の利を生かしたアイデアで、国内外のパートナー企業とともに取引先のニーズに合った製品をつくり、現在は国内で8割、残りは海外に原料を展開しています。
世の中のトレンドをつくる楽しみ
DOC Japanは、BtoB事業であるためなかなか消費者には見えないところで活躍をしている会社です。縁の下の力持ちのような存在ですが、大川さんは化粧品業界の原料づくりに魅力を見出しこれまで取り組んできました。原料メーカーとして事業を続けるのは、前職の会社で「原料が世界のトレンドをつくったという原体験があったから」と話します。
外資系の化粧品原料メーカーに務めていた頃、取り扱っていた原料の特徴として洗顔料やボディウォッシュの商品の特徴を説明する際に、「クリーミーな泡になる」と説明し、とある外資系の化粧品会社がボディウォッシュに原料を採用しました。すると大きな反響を呼び、他国から引き合いがくるほど大きな広がりを見せ、原料にも注目が集まりました。マーケティング用語として使用された「クリーミーな泡」という言葉とともに、原料の魅力が伝わり、世界中で「ボディウォッシュはクリーミーさが重要」というトレンドをつくったのです。
「海外の人であれば出されなかった表現や感覚だと思います。日本人だからこそ理解できた感触を原料として提供し、縁の下の力持ちではあるけど、結果として大きな影響を与えられたというのは忘れられない経験ですね」と振り返ります。
今では当たり前のように「クリーミーな泡」という言葉が聞かれるようになりました。原料から世の中のトレンドをつくれたという経験は、大川さんにとってやりがいや楽しさにつながっているようです。
「すみだリーディングファクトリー2020」SDGs推進部門に選定
元々、墨田区にゆかりのなかった大川さんが区内を事業地としたのは、ライオンや花王など、複数の化粧品会社の研究所があるというのがひとつの決め手になったといいます。「製品づくりをするうえで何かあれば駆けつけられる場所にいるメリットはあると思いました」と動機を話します。また、金属産業や皮革産業などものづくりをする中小企業も多い墨田区では、他区と比較して創業支援や女性経営者への支援など行政のサポートも充実しているという点も、創業時の後押しになったといいます。
2020年には優れた技術・技能や就労環境整備・人材育成等で、先進的な取り組みを行う区内のものづくり企業を表彰する「すみだリーディングファクトリー」のSDGs推進部門にも選定され、10年間の取り組みが区内でも高く評価されています。「昨年頃から化粧品業界でもSDGsを重要視する動きがあります。そんな中で、当社の事業を評価してくださったことは非常に名誉なことだと思っています」と喜びを語ります。
10年間の事業展開の中で、食品業界で使用されているものを素原料にして化粧品原料を開発するなど、他業界にも目を向けています。「墨田区はハード面を手がける会社が多いので、当社の原料が活かされるという場面は少ないかもしれませんが、食品業界など業界を超えて可能性を見つけているところはあるので、何かお手伝いできることがあれば積極的にコラボレーションをしていきたい」と今後の展開について前向きに話す、大川さん。
原料メーカーとしてさらなる飛躍をするために、人材育成に力を入れ始めました。「これからは自ら考え、道を切り拓く人材がより必要になってくると思います。経験や専門性を持つことも大切ですが、化粧品業界であれば購買層やターゲットとなるのは、いわゆるZ世代です。だからこそ、若手社員の感覚や感性は重要だと思うので、その感性をビジネスに変えていけるような人材を育成したいです」と大川さんは、DOC Japanの未来を見据えて取り組んでいます。
DOC JapanのSDGs
DOC Japanは、日本をはじめ欧州などの世界各地のパートナー企業とともに、天然由来成分を使用した製品開発を行うなど、コストをかけ人にも環境にもよい原料づくりに努めています。現在は、6種類のブランドを展開しています。
中でも、日本やアメリカ、欧州、中国で特許を取得した原料ブランド「DOCSilFee®(ドックシルフィー)」は、ツバキ種子油、マカデミア種子油など天然由来の成分のものを使用しています。
消費者により多くの選択肢を提供するために特許を取得した技術に基づく製品で、コンディショナーに配合をすると、シリコーンを配合しなくても、毛髪の修復や地肌によい効果があるとされています。
その中で、原料を生み出す責任として働く人や環境への負荷などに配慮した取り組みとして、生産農家を守る取り組みを2019年にスタートさせました。
原料ブランド「DOCSilFee®(ドックシルフィー)」には、伊豆諸島にある利島(としま)で採れるツバキ種子から抽出される油が使用されています。いち成分として、利島のツバキ種子油に魅力を感じていた大川さんは、海外に売り出したいという思いで農協の協力を得て購入していましたが、その過程で農家の高齢化によって担い手が減少している現状を目の当たりにしました。
「このまま農家がいなくなれば、徳川時代から脈々と受け継がれてきた種子油の産業がなくなり、島に生活する人も減少することも考えられるので、何かできることはないかと思った」と振り返る大川さん。
そこで、ツバキ種子の収穫時期にアルバイトとして大学生を利島に派遣し、収穫を手伝う活動を始めました。「こうした活動を通して、Iターン移住する方が生まれるなど、島の産業にも寄与できたら嬉しいですね」と大川さんは話します。コロナ禍で思うように活動ができず、歯がゆさも感じているといいますが、今後も継続して人にも環境にもやさしい化粧品原料づくりを推進していこうとしています。
世界各地のパートナー企業、そして国内の生産農家やつくり手の人たちを大切に、これからも持続可能な化粧品原料をつくりだそうと日々研究開発をするDOC Japanの今後の展開に注目です。
子どもたちへのメッセージ
仕事についていうと、もし自分が将来やりたいことがあるならば、それを大事にして進んでいいと思います。やりたいことが決まっていなくても、心配することはありません。経験したことはすべてが成長の糧になります。経験することは何ひとつ無駄ではないと思うので、何かに興味を持って1分1秒を大切にしていけば、きっと将来のためになっていくと思いますよ!(大川)