東武トップツアーズ株式会社

共に成長していく。

地域の課題解決に寄り添う、旅行会社の取り組み

画像提供 東武トップツアーズ

コロナ禍で各産業は大きな打撃を受けました。旅行業も、そのひとつ。困難な状況下でも、地域とともに持続的な成長を続けることを目指して、積極的に地域の課題に取り組む旅行会社があります。

今回は、墨田区内に本社を構え全国に事業所を展開する東武トップツアーズ株式会社の教育事業推進部の福田正治さんと経営戦略部の横田昭仁さんに、同社の取り組み内容や根底にある想いについてお聞きました。

「人は財産」という考えで、向き合う

東武トップツアーズは、東武鉄道グループの旅行会社です。全国47都道府県に拠点を持ち、観光旅行だけでなく、BtoBの分野で、会議やイベントなどMICE(※1)の運営や教育旅行をはじめ、スポーツ、インバウンドなど専門特化した分野にも取り組んでいます。「地域が抱える問題や課題をともに解決するパートナーの役割を担うこと」をミッションに掲げ、顧客価値を最大化した商品やサービスの提供を行うソリューションビジネスを手がけています。

企業理念に「Warm Heart~ありがとうの連鎖を~」という言葉を掲げている、東武トップツアーズ。「当社に関わるすべての人がお互いに『ありがとう』と思いやれる社会を目指し、地域のみなさまと共に持続的な成長を続ける取り組みを大切にしています」と、会社の目指す姿を話してくれたのは、経営戦略部の横田昭仁さんです。

「人が主人公であり、財産である」という会社の方針が社内に根付き、地域の力を日本の活力につなげる、旅行業だけにとどまらない事業を展開しています。

東武トップツアーズでは、従来の旅行会社の業務領域を超えて、社会貢献ができるビジネスフィールドに挑戦しています。そのひとつが教育事業です。旅行会社が扱う教育といえば、修学旅行を想像する人も多いでしょう。同社は、教育事業の中でも時代の変化に柔軟に対応し、力強く生きる力を身につける人材育成に寄与するプログラム設計を得意としています。

内閣府は、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指すことを定義した『Society 5.0』を提唱しました。これに伴い、教育の現場でも新学習指導要領が出され、未来を担う人材育成において、教育が最も重要であるという考えのもと、学校ごとにさまざまな取り組みが模索されています。

「当社としても地域も人も力強く成長させていくために、自社の強みを活かし、地域を探究する取り組みをしていくことを大切に、教育現場や自治体への提案、働きかけをしています」と、事業への熱意を語る、教育事業推進部の福田正治さん。

東武トップツアーズは、地方創生につながる教育の重要性、可能性をプログラムに落とし込み、提供しています。

※1 Meeting(会議研修)、Incentive(招待旅行、travel, tour)、Conference(国際会議・学術会議)またはConvention、Exhibition(展示会)またはEventの4つの頭文字を合わせた言葉。

人が成長するきっかけづくり

新学習指導要領で示された「総合的な探究の時間」。この対応として、東武トップツアーズでは2019年から探究学習に必要な社会課題を理解するために「SDGs」を学習プログラムに取り入れてきました。教育旅行として、これまで持続可能なまちづくりについて先進的な取組みを行ってきた北海道浦幌町、「SDGs未来都市」に選定された沖縄県恩納村や新潟県妙高市などで充実のプログラムを提供してきました。

東武トップツアーズは、人が大きな成長を遂げる要因のひとつは、リアルな体験にあると考えています。それも、学生たちだけで完結するものではなく、社会人や企業などと連携して実社会と関わる形で、じっくりと時間をかけたプログラムが多いのが特徴です。

北海道浦幌町では『うらほろスタイル』という名で、子どもたちをきっかけとしたまちづくりプロジェクトが行われています。近年は、地域への愛着を育む事業として、子どもたちが農泊体験や地域の課題を解決する町内循環バスを提案したり、PR活動をしたり……。

地元・浦幌町の子どもたちとともに、約30人の社会人が関わり、地方創生に向けた学びと実践を行っています。大手製薬会社や大手IT企業の社員らが副業で訪れたり、東京と行き来をして二拠点生活で関わったりする人もいるのだそう。

「大人と関わりながら、地元に愛着を持てるプログラム設計を行っています。子どもが成長していき、一度は町を離れて活動をするかもしれませんが、いずれ町に戻ってくることや、地域の中で活動をする人が増えていくようにつなげていきたいと思っています」

「人づくり」に重きを置き、学校や自治体への探究学習プログラムの提供を通して、社会と子どもたちがつながる機会を創出し、地域の活力に寄与しているのです。

自社のネットワークを活かした地域貢献

また、東武トップツアーズでは地域を持続可能なものにする「高校生おせち商品化」というプロジェクトも手がけています。全国の高校生たちが、それぞれ地域の食材を活かして地域に根ざしたおせち料理をつくるというもので、社会課題を解決につなげる取り組みのひとつです。同社は、各学校がつくりあげたおせち料理のパンフレットを作成し、自社のECサイト「TABI×YOSE」で販売を行っています。

きっかけは、北海道にある三笠高校でした。同校は廃校の危機に陥り、地域に何を残せるかを考え、食物調理科の学生が運営する週末限定のレストランをオープンさせました。年末になると、例年、両親たちにおせち料理をつくる文化があったことから、学生だけでなく地域の課題解決にもつながるユニークな取り組みに共感した東武トップツアーズが、自社のおせち販売とのコラボレーションを提案し、2018年にスタートしました。

初年度は、用意した200個が早々に完売し、増販したあとも完売となる反響ぶりで、翌年からは500個を販売するまでになった、大きなプロジェクトとなりました。2021年度は、全国10校の高校生たちがおせちづくりにチャレンジしました。

おせちづくりを通して、地元食材や食文化、商品販売までの過程などを学ぶことで、学生たちが自らの体験をもって地域の魅力に気づくことができます。また、福田さんは「全国の人に地域のものを発表できる機会を創出できるという点がポイント」と、『高校生おせち』の取り組みの広がり方に、確かな可能性を感じています。

宇都宮短期大学附属高等学校のおせち料理(画像提供 東武トップツアーズ)

リアルな体験は、人や町にとって成長を後押しすることにつながっています。地域の現状や課題を肌で感じながら、子どもと大人が一緒になって、地域の未来を考えていくという長期的なプログラムは、子どもの情操教育になるだけではありません。大人たちにとっても、若い世代の視点や感性に触れられる充実した機会になっています。

東武トップツアーズのSDGs

東武トップツアーズでは、性別や国籍を問わずさまざまな人材が活躍できるよう、働きやすく働きがいのある環境づくりの推進、ペーパーレス化やエコツーリズムの提案などの地球環境問題への取り組みを行うほか、世界の途上国の子どもたちにワクチンを届ける活動にパートナーとして参画することを、行動で示してきました。

かねてから、社会貢献活動に力を入れる取り組みを強化していて、中でもSDGs推進に向けた取り組みに対する行動力は、旅行業界一といっても過言ではありません。

世界中がSDGsを意識する以前の2012年には、日本の旅行会社として初めて『国連グローバルコンパクト』に参画をしました。国連グローバルコンパクトとは、「各企業や団体が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組」のこと。

当初は参画したことをうまく活かしきれなかったところもあるそうですが、次第に世の中のSDGs推進の機運の高まりとともに、教育現場においてSDGsを学ぶ機会の必要性が求められるようになったことも契機となって、2019年から分科会にも積極的に参加しています。

「当社で修学旅行の誘致などのSDGsを基軸とした学習効果の高い旅行の提供に取り組んでいます」と話す横田さんが具体的な取り組みのひとつとして紹介してくれたのは『SDGsボードゲーム』です。

これは、SDGsに関する世界の取り組み事例をわかりやすく、そして楽しみながら学ぶツールとして、一般社団法人未来技術推進協会が開発した「SDGs達成」と「自己成長」を目指す体験型ボードゲーム。東武トップツアーズでは、SDGsを自分ゴト化させ行動につなげるワークショップを探究学習のプログラムとして提供しています。

事前に研修を受講し、SDGsボードゲーム公認ファシリテーターとなった社員がワークショップを運営し、企業研修や学校の授業などで参加者がSDGsを学び、社会課題解決に向けてアイデア出しや自分ゴト化する機会をつくり出しています。現在は、175名ものファシリテーターがおり、これまでに約60校、1万人が参加した実績があります。

画像提供 東武トップツアーズ

最近では、より地域にフォーカスした内容のボードゲームも誕生しているようです。地域版のボードゲームの魅力を福田さんが話します。

「京都や横浜といった地域版ボードゲームも生まれていて、楽しみながら学びを深められるので、修学旅行前の事前学習としてワークショップを実施し、興味関心を高めて修学旅行に行くということにもつながっているのです」(福田)

東武トップツアーズでは、観光推進で地域活性化を図る取り組みなどを行う自治体に対して、企業版ふるさと納税制度を活用した寄附を実施しています。先進的なまちづくりの取組みで先に紹介した北海道浦幌町も、SDGsの学習プログラム提供が縁で寄附の実施につながったそう。同社は地域と共に歩み、地域を元気にする取り組みを進めてきました。その中で、2020年には企業版ふるさと納税制度において、地方創生に取り組む自治体と、地域への貢献やパートナーシップの構築を検討する企業とのマッチングをサポートする会社を立ち上げました。

「旅行に軸足を置きつつも、地域課題や人を呼び寄せることも含めて、これからも当社が積極的に関わっていきたいですね。地域課題を自治体とともに解決を図るお手伝いができたらと思っています」とこれからの取り組みに対する意気込みを語る、横田さん。

「地域の人たちが何かあったときに、一番の相談役でありたい」と話す福田さんから、地域や人を大切にする企業風土が垣間見えてきます。

会社の根底には、常に周囲に感謝を忘れず、社員やその家族も含めて関わる人を大切にしながら、地域の成長とともに会社も発展していこうとする精神が根付いています。

子どもたちへのメッセージ

当社は旅行会社として培ってきたホスピタリティとお客さまの課題を共に解決するコンサルティング力を活かした取り組みを進めています。これからも旅行やイベントなどを通じて、その地域にある魅力や感動をみなさんにお届けできればと考えています。(福田)

おもてなしを大事にしてきた会社なので、地域の方々の課題に寄り添って解決していくことを常々意識しています。これからも変わらず、お手伝いできればと思っています。人を大切にする、人は財産であることを経営理念に掲げているので、人とのつながり大切にしていきたいと思っています。(横田)