UDCすみだ

まちと大学をつなげる。

すみだの未来へのきっかけをつくるUDCすみだ

23区で唯一大学の無かった墨田区。長きにわたって大学誘致をし、ついに2020年4月にiU情報経営イノベーション専門職大学の開学、2021年4月には千葉大学の墨田サテライトキャンパスの開設が実現しました。そんな大学を活かして、墨田区のまちづくりの一翼を担おうと誕生した組織、UDCすみだ。どんな未来を思い描き、同組織が誕生したのでしょうか。今回は、墨田区役所 企画経営室 行政経営担当課長の岐部靖文さんにUDCすみだの果たす役割や大学をどのように活かそうとしているのかお話を聞きました。

キャンパスのようにまちをつくり、まちのようにキャンパスをつかう

2021年4月に設立された「アーバンデザインセンターすみだ(以下、UDCすみだ)」。大学の知見を活かす新しいまちづくりを推進する中心組織です。公・民・学連携の組織として、墨田区やiU、千葉大学、区内の関係団体などで構成されています。

そもそも「UDC」とは、アーバンデザインセンター(Urban Design Center)の略称で、NPOや地域団体、地方公共団体などの「公」、区民や地元企業、開発事業者などの「民」、大学や専門機関、研究機関などの「学」が連携するまちづくり組織です。活動をするエリアに拠点となる施設をつくり、ハード面・ソフト面からそれぞれ取り組みを行います。行政の都市計画や市民のまちづくりの枠組みを超えて、地域に関わる人や組織が連携していく仕組みがあり、新しいまちづくりの形として注目されています。

2006年に最初の拠点となる柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)が誕生してから、2022年4月時点で全国23か所に展開されています。UDCすみだは、UDCの23番目の拠点として千葉大学墨田サテライトキャンパスの開設と同じ、2021年4月に設立されました。

千葉大学の1階と2階が地域開放エリア(※)として誰もが訪れ、大学の研究成果に触れたり、まちづくりの情報発信ができたりと交流の場としてUDCすみだが運営し、3階から5階は大学の占有フロアとして、研究活動が行われています。※2022年10月現在、1階のみ開放

UDCすみだが活動するエリアは、大学のある京島・文花地区や押上地区、そして隣接して流れる北十間川沿いが中心ですが、将来的には区内全域はもちろん隣接する区とも連携ができるような動きをつくろうとしています。UDCすみだは、墨田区文花の「あずま百樹園」に隣接する千葉大学墨田サテライトキャンパスの1階に設置されています。同大学のデザイン教育・研究の中心拠点となる場所です。また、すぐ隣には産業界と連携してICT(情報通信技術)による新たな社会づくりを目指すiU情報経営イノベーション専門職大学(以下、iU)があります。

「UDCすみだは、地域と一緒に取り組むコンセプトとして『繋ぐ・学ぶ・創る・伝える』の4つを掲げ、10の目標と100のプロジェクト実施を目標にした『すみだ百計』の達成を目指して、墨田区が抱える地域課題や社会課題の解決を目指す活動を行っています」

UDCすみだの活動を説明してくれたのは、墨田区役所 企画経営室 行政経営担当課長の岐部さんです。

設立は、UDCの最初の拠点であるUDCKで当時、副センター長を務めていた上野武先生から、すみだでの設立を打診されたことがきっかけなのだそう。千葉大学名誉教授である上野先生は、建築・都市計画など、まちづくりに関するさまざまな知見を持っている方です。墨田キャンパスの開設と同時に「UDC」の仕組みを活かした組織ができれば、墨田区にとってまちづくりの新たな契機になると提案をしたのです。

「墨田区が『大学のあるまちづくり』を構想する中で、UDCKの視察をした区長は、公・民・学がつながる取り組みや大学の知見がまちの中に散りばめられている光景を目の当たりにして、相当な感銘を受けていましたね。『今ある資源を活かして墨田区でもきっとできる』と大きな期待を持っていた様子でした」と岐部さんは振り返ります。

2020年度の準備組織立ち上げ時には、墨田区や千葉大学、iUをはじめ、すみだまちづくり公社、区内事業者として東武鉄道や東京東信用金庫、UR都市機構と東京商工会議所墨田支部などが集結しました。当時は、墨田区だけでなく大学も事業者も、組織で一体何をすればよいのか役割をうまく見出せずにいたこともあったと言います。

そんな時、UDCすみだ設立の提案をした上野先生は「まずはその場所に集まることこそが大切だ」とお話をされたそうです。

「集まる場所があるからこそ、互いの情報を持ち寄ることができ、そこから解決のヒントや新しいことが生まれる、という上野先生の言葉にはっとして、やらなければいけないという考えではなく、まずは集まってみることからいろんな議論が始まっていきました」と当時を振り返ります。

こうして2019年の構想から約2年でUDCすみだの設立を実現させました。

国土交通省の官民連携まちなか再生事業に採択され、すみだという地域と2つの大学が協働して、すみだならではの「大学のあるまちづくり」に向けて、UDCすみだを中心とした未来ビジョンの策定も進めるほか、長屋や空き家を改修した居場所づくりの「すみだアカデミックハウスプロジェクト」や地域と大学の交流広場「キャンパスコモン」の整備事業などを行っています。

大学のキャンパスには、さまざまな学部・学科が集まり、研究室をはじめとする教室やカフェテリアなどの共用スペースといったいろんな機能や用途の空間があるのが特徴です。UDCすみだは、キャンパスの特徴はまちづくりにおいて活かされるポイントだと捉えています。「キャンパスのようにまちをつくり、まちのようにキャンパスをつかう」とテーマを掲げ、公共空間デザインの検討や建築活動の相談・協議、さらに地域の合意を得られる支援、学習プログラムの運営など、日常的に、そして多面的に活動をしています。

よい取り組みを加速させる、まちのコーディネーター

UDCすみだは、ベースの考え方として人もお金も「持ち寄り型」にしています。関わる主体が、自分たちの持つ課題、まちの課題といったものをUDCというプラットフォームに持ってきて、さまざまな団体や事業者から情報を収集しながら解決を目指していきます。

「まちづくりにおいて、UDCすみだは『誰にでも優しく』『共創と継続』『持続可能性』ということを大切にしています。そのため、組織として単独で何かの施策を打つのではなく、公・民・学のネットワークづくりをすることで地域課題の解決につなげていくきっかけを作っていきたいと考えています」

そうした想いがまさにカタチになった事例もいくつか生まれています。新型コロナウイルスのワクチン接種体制の構築がそのひとつ。

区内のワクチン接種会場不足が課題であることをうけ、UDCすみだが調整役となり、千葉大学、墨田区役所、保健所やキャンパス近辺の医療機関をつないで、当時では全国初となる大学の一部を接種会場にすることを実現させました。さらに、千葉大学の協力を得て視覚伝達デザインの知見を活用した接種会場の誘導サインなどが作成されました。

また、UDCすみだの10の目標のひとつ「環境問題・持続可能性」の達成を目指した取り組みも始まりました。傘の廃棄を減らすシェア傘プロジェクト「墨傘(スミカサ)」というものです。駅の忘れ物傘は一定期間保管すると廃棄処分されてしまうため、捨てられるはずの傘をリユースし、無料でシェアリングすることで地域に再び循環させます。このプロジェクトは、iUのイノベーションプロジェクト(起業に関する知識・スキルを身につける必修科目)から誕生した大学生発案のプロジェクトです。

「UDCすみだ主催の大学生向けのアイデアコンペティションで提案された事業のひとつです。本事業は、実は一度は選考から外れたものでした。その後、改めてiUから東武鉄道さんに事業の打診をしたところ、『環境にも配慮され、自社の課題解決にもつながる面白い案だ』と共感いただいたことから事業化につながった事例です」と、岐部さんも前向きな事業が生まれたことに喜びを感じています。

「墨傘」は2022年5月にサービス開始となり、東武亀戸線 小村井駅やiU、UDCすみだに傘置き場が設置されています。本プロジェクトは東京都の補助事業にも採択され、今後は、iUが持つICTの知見を活用したシステム化などの検討を進めていきます。将来的には、区内の公共施設や商店街などへと設置場所を拡大させ、クーポンやエコポイントを贈呈する仕組みの構築も進められていくといった施策となっていくようです。

UDCすみだがさまざまなアイデアを募る機会をつくったことで、課題解決と共にすみだの暮らしをちょっと豊かにする動きが起きているのです。

「UDCすみだはあくまでも黒子的存在。直接、大学に何かを相談したり、提案したりすることにハードルを感じている方も少なからずいると思います。そんな時に『相談してみようかな』と思ってもらえるような組織でありたいですね。まちの中で少しずつ浸透していけたらいいなと思っています」と岐部さんは意気込みを話します。

UDCすみだは、まちづくりを下支えするコーディネーター的な存在として大学とまちをつなげて、取り組みの加速を支えています。

※包括連携協定:地域が抱えている課題に対して自治体と大学・民間企業などが協力し、解決を目指す協定のこと。

すみだの未来を一緒につくっていく

2023年度には、iUと千葉大学の両大学のキャンパスの間に、「キャンパスコモン」という屋外の公共スペースが誕生します。元々は未活用だった土地を整備して地域と大学の交流できる空間をつくるべく、UDCすみだが設計に携わっています。区民の憩いの場やイベント会場となるなど、まさにさまざまな人が行き交い「まちのようにキャンパスをつかう」光景ができあがる予定です。

誰もが利用できる地域に開かれた空間としての整備には、ここでも大学の知見が活かされています。

あずま百樹園に設置予定の公衆トイレは、千葉大学・iUの学生を対象にしたUDCすみだ主催のアイデアコンペティションで最優秀作品に選ばれた設計が反映されます。整備すれば家一棟が建つともいわれる公衆トイレは、本来、デザイン性を強く求められないものですが、「公園のトイレは入りにくい」といったイメージを払拭し、より区民が親しみを持てるトイレをつくることを目指しています。

UDCそのものは全国的に地方都市にある場合が多く、UDCすみだのように首都圏にあるというのはそう多くありません。区内の新たな組織のひとつですが、単独で何かを達成するというのではなく、いろんな団体と関わってネットワークをつくりながら活動をしていくということを、組織のメンバーで共通認識として持っています。

文花地区は今、大規模開発が進められています。開発・整備にあたっては、地元の町会や自治会、学校、PTAなどまちの関係者が一堂に会して、合意形成を図る協議会「跡地利用・まちづくりに関する住民協議会」があります。UDCすみだは、取り組みにおける地元住民の参加を募ることや組織の想いを伝える場として、協議会への参加を大切にしています。

東京都の補助事業に採択され、「町のスマートシティー化」のプロジェクトとしてICTを活用してすみだのまちを豊かにしていく事業を2022年から3年かけて行っていくことが決まっています。ICT分野に強みを持つiUと総合大学として10学部を有する千葉大学の園芸学部や建築、デザイン、予防医学などの分野を掛け合わせて、ICTを使って健康なまちづくりをするプロジェクトもこれから本格的に進んでいきます。

キャンパスコモン内では、区民の健康につながる予防医学の仕組みや環境づくりの検討が進んでいます。例えば、千葉大学の予防医学センターの知見を活用し、キャンパスコモン内に自分の歩行速度を計測できるシステムを入れ、エリア内を歩く人に健康へのヒントとなるパーソナライズされたメッセージが通知される仕組みです。

他にも緑化推進・雨水利用・環境教育といった事業も進められ、環境分野では墨田区と千葉大学が共同研究を行っており、家の建物に設置されている雨樋(あまどい)を活用した水耕栽培をまちの風景にする社会実験も行われるのだそうです。

まちを実験場として活かし、大学をまちの一部として日常的に利用する。「大学の研究が区民にもオープンになっていく形がつくれたらいいなと思いますね」と岐部さんが言うように、UDCすみだは大学とまちをつなげ、共創の場をつくっていこうとしています。

「まずは令和6年度(2024年度)にあずま百樹園の整備が完了する予定です。一つひとつの取り組みや連携を大切にしながら、区民にも認知が広がり、将来的にUDCすみだが文花地区をはじめとするすみだの未来の一翼を担えるような存在になっていけたらいいなと思っています。地域にとっても、大学にとっても使いやすく、過ごしやすい場所・エリアをつくっていきたいですね」と岐部さんは言います。

UDCすみだは設立から間もない組織ですが、すみだの未来をつくる新たな取り組みや検討を次々と進め、まちづくりのコーディネーター的存在として、「大学のあるまちづくり」に邁進しています。まちへのつながりを感じられる場や時間が増えて行けば、きっとすみだの人々の暮らしがより豊かになっていく。大学誘致を契機に生まれたUDCすみだは、多世代の人たちが一緒にまちをつくるきっかけを与えています。

子どもたちへメッセージ

子どもたちにとって身近に大学があることは、憧れを抱いたり、夢を持てたりするきっかけになると思います。大学生と触れ合える機会がたくさんありますので、ぜひ将来の夢を考える上で、キャンパスに遊びに来てください。(墨田区役所 )