墨田区

暮らし続けたいまちに。

区民と事業者の交流から豊かな暮らしを実現する墨田区のSDGs

今や耳にしたことがないという人はいないほど聞かれるようになった「SDGs(エスディージーズ)」。人口増加や地球環境問題などの問題への危機感から、世界中の人たちが持続可能な暮らしをしていくために「誰ひとり取り残さない」世界の実現を目指して達成すべき目標として掲げられたものです。墨田区ではこのSDGsを通じて、暮らし続けたいまちを目指した取組を積極的に行っています。墨田区がSDGsに力を入れる背景にはどのような思いがあるのでしょうか? 今回は、墨田区企画経営室副参事( SDGs未来都市政策調整担当)の藤原聖一郎さんに墨田区の取組事例やSDGsを通じてすみだの暮らしをどのようにしていきたいのか、お話をお聞きしました。

SDGsを通じて、すみだの暮らしをアップデート

SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で「持続可能な開発目標」のことを言います。2015年9月の国連サミットにおいて、加盟する193か国全てが採択した、2030年までに世界中の人々が「誰ひとり取り残さない」という理念のもと、人間らしく暮らすための社会基盤をつくる目標です。17のゴールと課題ごとに設定された169の達成基準が設けられています。SDGsは、持続可能な社会の実現を目指し、「経済・社会・環境」の3つの側面のバランスがとれた社会を目指す世界共通の目標になっています。

そんな中、国内ではSDGsの優れた取組をしている自治体を「SDGs未来都市」として国が選定しています。墨田区は、2021年度の「SDGs未来都市」に選定され、さらにその中でも、特に先導的な取組として毎年度10都市のみ選定される「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれました。同年度にダブル選定を受けたのは、23区内で墨田区のみ。SDGsの取組は高く評価されているのです。

墨田区は「『働きがい』を『生きがい』と『暮らし』につなげるデザイン」を大きなテーマとして、墨田区基本計画にSDGsの視点を導入するなど、区の未来を見据えて人が主役の「暮らし続けたいまち」「働き続けたいまち」「訪れたいまち」を実現する事業を数々行っています。

2030年の墨田区のあるべき姿として、「働きがいを起点にした生きがいのある豊かな暮らし」を目標に掲げています。そのため、ものづくり産業が集積する墨田区の特徴を活かした取組に力を入れています。社会課題の解決につながる取組をするスタートアップ企業などを誘致して、新たな技術やノウハウの“プロトタイプ(試作品)”を開発して、社会実装していく。そこから、生き生きと暮らす人を増やし、人々が持続可能な社会に役立つことを実感しながら過ごすことのできる幸せな社会の実現を目指しています。

経済・社会・環境をテーマに、つながりや連携を加速させていく

産業を軸とした暮らしのアップデートを図って持続可能なまちの実現をしようとしている墨田区。2030年に向けて、今、墨田区は「経済」「社会」「環境」の3つのテーマでさまざまな活動や取組を行っています。

「経済」のテーマでは、墨田区の産業振興課や区内の企業・事業者が中心となり、継続的に稼げる仕組みを構築することを目指しています。

「ものづくりの技術を持った既存の事業者がいるところに、新しいアイディアやイノベーションを起こすスタートアップ企業を誘致し、ものづくりの技術と新しい発想を掛け合わせて、社会課題の解決につながるようなプロダクト(製品)を生み出し、区内で実証実験をする取組をしています」

地元企業の金属加工メーカーである㈱浜野製作所とオリィ研究所というスタートアップ企業がアイディアを持ち寄り、「OriHime」という分身ロボットを造りました。

「このロボットは、障害や病気を抱えていて外出ができない方が自宅で遠隔操作を行うことで、離れた場所にあるカフェで店員として働くことが可能となり、外出困難者の就労面などの課題解決につながるプロダクトです。こうした社会課題の解決に資する事例を多く生み出すことで、区内の事業者がしっかりと稼げる環境を作っていこうと考えています」

提供:オリィ研究所

「社会」のテーマでは、誰もが働きやすく健康を維持できる社会環境の整備をすることを目標に掲げています。保健計画課が中心となって、従業員に配慮した健康経営を行ってもらうため区内事業者へ働きかけや、健康寿命を伸ばす取組、「データヘルス(医療保険者が従来は困難だった電子的に保有された健康医療情報を活用した分析を行った上で行う、加入者の健康状態に即したより効果的・効率的な保健事業)」を進めています。

墨田区は東京23区の中でがんによる死亡率が高いという数値も出ているので、がん検診を促すだけではなく、データヘルスによって何歳ぐらいに、どのような病気にかかりやすいかというような分析を行っていこうとしています。

「環境」のテーマでは、地域共創による環境配慮型社会の実現を目指しています。2021年10月には、『すみだゼロカーボンシティ2050宣言』を区長と区議会議長が表明しました。区民や事業者と協働しながら、脱炭素社会に向けたまちづくりを推進していこうとしています。

さらに、次世代を担う若い世代向けの環境教育などに力を入れていくことをはじめ、区民に向けて「そもそもSDGsとは何か?」ということから伝え、身近な日常生活に結びつくような啓発活動を始めています。

藤原さんは取組の一例を話してくれました。

「食品ロスを減らすための取組として、家庭で余った食品を持ち寄り福祉団体やフードバンクに再分配する『フードドライブ』を実施しています。10月10日には、錦糸町にある商業施設のPARCO(パルコ)さんと協働し、イベントの中でSDGsの啓発や『フードドライブ』を実施します」

すみだ清掃事務所が担当する取組としてスタートした『フードドライブ』は、年間24回、区内のさまざまな場所で実施してフードロス削減のきっかけのひとつになっています。

顔が見えるやり方で、自主的な取り組みや連携を後押し

私たちの暮らしを見直すきっかけとなるSDGsですが、日常生活のどんなところがSDGsにつながっているのか、よくわからないという人もいることでしょう。だからこそ「身近な生活の中でSDGsを意識していただくための情報発信が大事だと考えています」と藤原さんは言います。

イベント業者や代理店に依頼をすれば、よいイベントをつくることは可能ですが、藤原さんをはじめとする墨田区のSDGs担当チームは、SDGs推進のために啓発活動を行う際には、お互いの「顔が見えること」を大事にしています。

藤原さんは「手作り感でもいいから、自分たちの手でまずはやってみるという姿勢で挑んできました」とこれまでの活動内容を振り返ります。企業や各団体、区内の大学等と直接会って議論を重ね、墨田区としての想いを自分たちの言葉で伝え、一緒に作り上げていくという姿勢で臨んでいます。

SDGsの情報発信としては、区報の特集号の発行や啓発冊子の制作、環境フェアや観光協会が実施するイベントへの出展なども行っているほか、SDGsへの意識を高めるグッズとして栃木県鹿沼市産の間伐材を使用したカラーホイールのピンバッチを作成し、職員に配付をしました。このピンバッジの袋詰め作業は、区内の福祉作業所の人たちが行ったもので、ひとつの雇用創出にもつながっています。

また、教育分野へのアプローチとしては、啓発冊子のデータを各学校に提供し、小・中学校の生徒たちにタブレットでSDGsを学んでもらうことや、広報広聴担当が所管する「すみだ子どもPR大使」の子どもたちにワークショップを実施し、動画にまとめて区公式ユーチューブで配信するなど子どもたちの目線で情報発信を行う取組も実施しています。

すでに墨田区としてさまざまな啓発活動を行っていますが、それでも「まだまだ区内にSDGsは浸透していない」と課題を感じています。

「そもそもSDGsとは何か? 墨田区としてSDGsを通してどんなまちにしていきたいのか? という想いの部分を発信するだけではなく、「普段の生活で何気なくやっている行動が、実はSDGsにつながっている」という「気付き」を促していかないと、本当の意味でSDGsを浸透させていくことは難しいと思っています」

だからこそ、墨田区として「顔が見える」取組にも力を入れるようになりました。直近、東京ソラマチで開催したイベントが印象的だったと藤原さんは振り返ります。 「すみだのものづくりワークショップ」と題したものづくり体験を通してSDGsに触れるワークショップは、計7回すべてが満員で、大盛況。木材チップを混ぜ込むことで使用するプラスチックの量を減らした「森のタンブラー」にお絵描きする体験や、区内の業者さんから提供いただいた本来捨てられてしまう布の端材を活用してプランターを作る「ふろしきプランター」のワークショップ、環境問題の一種である放置竹林(竹害)を学び、竹を資源として活用する「オリジナル竹とんぼづくり」のワークショップが実施されました。

千葉大学の学生をはじめ、アサヒグループジャパン㈱、東武鉄道㈱、東京ソラマチの協力のもと実施されたこのイベントは、SDGsを区民に知ってもらうための「場づくり」として墨田区が区内大学や事業者と連携してつくりあげた初めてのイベントでした。

藤原さんは、墨田区のSDGsの取組を理解し、共感を得られるよう連携先の団体と膝を突き合わせて話し合う時間を大切にしました。

「SDGsの推進は行政だけでは到底実現できるものではないと思います。そのため、区民、企業・事業者など多様なステークホルダーと連携し、SDGsの考え方を共有して、具体的な取組の輪を広げていくことが大事だと考えています。区民や団体がつながる機会を増やしていきたいという思いもあったので、自分たちがしっかり説明し、ステークホルダーの考えを受けとめながらイベントを作り上げるというスタイルにこだわりました」と振り返ります。

ワークショップに参加したアサヒグループジャパンや千葉大学の学生たち

イベントを行ったことで、実際に参加者の反応を伺うことができ、運営者たち(千葉大学の学生達やアサヒさん)の主体性がよりよいイベントにつながったと、藤原さんは言います。

「参加した親子が楽しそうな姿は印象的でしたね。大人よりも子どもたちのほうが学校ですでにSDGsに関する勉強や体験をしている側面もあります。大人と子どもが一緒に学び合える場も効果的ですね。子どもを通じて親へ波及する、いわゆるリバースエデュケーション(逆向きの教育)に結びつく活動を実施していくのも良いと考えます」

イベントひとつをとっても、事業者同士の活発な交流や連携、そして区民が持続的にすみだのまちで生き生きと暮らせるようになる小さな一歩になると、現場で実感した藤原さん。

今後、参加した方の顔が見える活動にさらに力を入れていきたい、と話します。

気軽に相談できる存在でありたい

SDGsの17番目のゴールとされている「パートナーシップで目標を達成しよう」という目標について、墨田区では「公民連携デスク」をつくりました。SDGsの取組に関する相談窓口です。

さまざまな連携を加速させるツールとして、マッチングリクエストシートを作成しました。団体や組織ごとにSDGsに関してどのような取組をしているか、強みはどこにあるのか、といった情報を整理して、行政の視点でどんな観点から連携ができるかを考えていきます。2022年4月から現在までに、すでに20件を超える相談があったのだそうです。

関連する部署につなぎ、具体的に動き出したものも数件あります。例えば、前述のPARCOの10月のイベントや、中小企業診断士の団体が開催する高齢者の方向けの起業セミナー実施、SDGsに貢献する寄付付きの自販機の設置、東京新聞の北十間川で環境を学ぶイベント開催など、企業・団体から提案があった内容の実現を後押ししました。

産業振興課が所管部署となっている「SDGs宣言事業」では、区内でSDGsに取り組むあるいはこれから取り組もうとする企業や団体を、産業界だけでなく広く募集しています。現在、100社(団体)以上が手を挙げています。今後は手を挙げた事業者・団体が、自分たちの取組を発表し合い、異業種同士がつながることのできる「場づくり」も検討しています。

「どんな内容がSDGsにつながるかわからないという事業者や団体もいらっしゃると思います。区民への啓発はもちろん、事業者に対する情報発信もしっかり行っていきたいですね。まずは、普段の活動に取り入れていただき易い内容を紹介するなど、きっかけづくりをしていきたいと思っています」

事業者だけでなく、教育現場からも「墨田区のSDGs」をフックに修学旅行のフィールドワークとして学びたいと区内外から要望が寄せられているのだそうです。墨田区観光協会と連携し、区の地域資源を活かした探究学習の教育旅行のパッケージづくりも進めています。

SDGsがひとつの共通言語になり、区内で事業者との連携や人々がつながる機会が増えていくと、やがて働きがいや生きがいを持てる人が増えていく。すみだの経済が活性化すれば、豊かな暮らしを実現する人が増え、自分たちの暮らしを維持していこうと健康や環境面も考えるゆとりも生まれていく。そんな好循環が起きることを目指して、墨田区はSDGsを推進しているのです。

「SDGsを切り口に、たとえ異業種であっても同じ目的のために、面白い形で連携が生まれることが、私たち墨田区にとっては嬉しいんです。SDGsを通して、誰もがすみだで生き生きと暮らし続けられるまちにしていきたいですね」

墨田区と一緒にどんなことができるのかを模索している方、どの部署に相談したらいいかわからないと悩んでいる方は、まずは「公民連携デスク」を利用してみてください。何か一歩前に進めるきっかけになるかもしれません。

子どもたちへメッセージ

みなさんの生活の中に、SDGsを達成できることはたくさんあります。買い物に行くときにはエコバックを持っていくことはプラスチックごみの削減につながります。また、出されたご飯は残さずに食べることも食品ロス削減につながるし、ごみを捨てる時はちゃんと分別することも環境を守ることにつながります。「これは地球にとって悪いことにならないかな?」「他にもっと良い方法はあるかな?」と、生活の中で少しだけ意識してみてくださいね。(藤原)