一般社団法人SSK

体験から学び、成長へ。

次世代の子どもたちに「遊び場」を届けるSSKの取り組み

「非日常の体験を通して、あそびゴコロあふれる優しい社会を実現する!」をミッションに掲げる一般社団法人SSK(以下、SSK)。キャンプなどの野外活動をはじめとするさまざまな事業を展開し、「遊び」の機会を通して子どもたちが成長する場をつくっています。今回は、SSKを設立した会長の須藤昌俊さんに立ち上げの経緯や、子どもたちに遊びの体験を提供する想いをお聞きしました。

子どもたちが豊かな体験をできる場づくり

SSKは「キャンプ・イベントの実施」、子どもの体験活動を支える「指導者養成」、キャンプやレクリエーションなどの体験活動をYouTubeチャンネルで配信するほか、子ども会やPTAなどの地域団体、行政、企業が主催する体験学習の支援などを行っています。

子どもたちの成長に「遊び」の体験が不可欠だと考えているSSKの須藤さんは、「墨田区ジュニア・リーダー研修会」に学生時代から関わってきた影響が、今日のSSKの活動につながっていると話します。

墨田区ジュニア・リーダー研修会は、子ども会などの活動で子どもたちのリーダーとなることを目指したプログラム。研修後に実践的に活動をする中学生、高校生の集まりです。研修会では、仲間づくりに役立つゲームをはじめ、野外活動、軽スポーツなどの知識や技術を学びます。これまで、少年キャンプのプログラム運営や「すみだまつり」のブース出展、学校お泊り会でのレクリエーション、子ども会でのクリスマス会企画など、さまざまな現場でジュニア・リーダー研修会の卒業生たちが活躍してきました。

墨田区で生まれ育った須藤さんも、この研修会に参加していた卒業生の1人です。

1999年にジュニア・リーダーとなり、大学卒業後の2005年から「地域の中で活動ができる」という考えのもと墨田区役所の職員として勤務をしていました。その間にもジュニア・リーダー研修会やサブ・リーダー講習会のボランティアスタッフとして、細々と活動をしながら携わり続けていたのだそうです。

「大学卒業時は活動をやりきった気持ちでいましたが、区役所時代もボランティアとして少し関わっていました。小学校5・6年生とキャンプに行く中で、子どもたちが達成感を味わい、キャンプ体験を経てぐっと成長をする様子を見て『やめられないな』と思うようになっていったんです」

中学時代から墨田区ジュニア・リーダー研修会に参加し、会を卒業後も研修会のボランティアサポートを行ってきたという須藤さん。自身がそうであったように、改めて子どもたちの体験する場づくりへのやりがいと可能性を見出しました。

運良く、区役所では須藤さんが希望していたジュニア・リーダー研修会を担当する生涯学習課(現 地域教育支援課)に異動が決まり、子育てに関連する講座や放課後子供教室などの学習事業を担当しながら知見を深めていきました。

「私たちが子どもの頃は、空き地で鬼ごっこをしたり、友達のマンションの周辺でかくれんぼをして遊んだり、遊びのフィールドは広かったと思います。一方で、現代は共働きの夫婦も増えて子どもたちが安心・安全に遊べる対策として公園などではさまざまなルールが設けられるようになりました。もちろんそれによる安全性は高まりますが、子どもにとって遊びが窮屈になっているのではないでしょうか」と子どもたちがダイナミックに遊べない社会になっていることを指摘します。

「遊びに理解のある大人が、子どもと一緒に遊べる空間をつくることは大切だなと思った」と話す須藤さんは、時代と共に起こる環境の変化に理解を示しつつも、どんな時代においても子どもたちにとって「遊び」は重要なものと強調します。

民間側から子どもたちの体験学習の機会をつくりたいと考えるようになった須藤さんは、墨田区役所で勤務していた2013年に、墨田区ジュニア・リーダー研修会の卒業生たちを中心とする仲間で「すみだ青年協力会(現 一般社団法人SSK)」を立ち上げました。日帰りイベントや運動会の企画運営、指導者養成の宿泊研修を実施するなど、少しずつ活動の幅を広げ、2017年には念願だったSSKオリジナルのキャンプ企画を実現させました。

SSKの象徴になった移動式遊び場「からふる号」

子どもたちが遊びを通して体験できる場をより広げていきたいと、須藤さんは2020年に墨田区を退職し、本格的にSSKの活動をスタートさせました。

しかし、子ども向けのキャンプ事業を展開する予定だったSSKに壁となって立ちはだかったのは、新型コロナウイルスの感染拡大でした。外出制限を余儀なくされ、子どもから大人までみんなで集まれない状況に陥り、キャンプやイベントも例外ではありませんでした。

そこで考えたのが、移動式遊び場の展開です。かねてから、ドイツではプレイバスの取り組みが行われていたことを知っていた須藤さんは、プレイバスによる遊びの場をつくりたいと考えを温めていました。

「2019年にドイツからプレイバスの取り組みをしている方が来日され、日本学術会議が主催するシンポジウムに登壇するということを知り、参加しました。直接話しを聞いて、改めてプレイバスの可能性を感じて、あたためてきた想いを実行に移そうと決心しました」と振り返る須藤さん。

移動式遊び場は、遊びを引き出す道具と素材を搭載し、遊びを支援するプレーリーダーと共に地域を巡る移動する車です。子どもの遊ぶ環境を充実させるため、移動式遊び場づくりを進め、資金調達には、墨田区が提供するクラウドファンディングの「すみだの夢応援助成事業(※1)」を活用しました。SSKとして初めての試みではありましたが、子どもたちの遊び場環境をつくりたいという想いに共感した人たちから約150万円の支援額が集まり、プレイカーの購入に充てられました。

その後、搭載する大型遊具の製作や車体を落書きのできる黒板にするための塗装を子どもたちと共に行って、みんなで作り上げました。

移動式遊び場の魅力は、どこでも遊び場所にできる機動性の高さにあります。「からふる号」はSSKの象徴とも言えるプレイカーとなり、街中に遊びの場をつくってきました。

毎週水曜日は、墨田区押上一丁目にある公園「わんぱく天国」で「からふる号」が活躍しています。よりよい遊び場にしていくため、墨田区教育委員会からの研究委託を受けた千葉大学 環境デザイン研究室が調査・研究をしている中で、SSKが協力をしているのです。

現在は「わんぱく天国」に集まる子どもたちと共に、「からふる号」の屋根部分をウッドデッキのように改造する計画も進められているのだそうです。「いろんなことができる状況をつくり、創造的な遊びの場をここから広げていきたい」と想いを話します。

「遊び」からその先の交流へ

「からふる号」から広がる取り組みは、単独だけでなくさまざまな団体や企業との協業を生み出しています。

定期開催の取り組みのひとつに、立花一丁目団地で毎月第3土曜日に開催する「みちあそび」があります。「みちあそび」は、One SUMIDA Project(※2)の一環で、SSKが「からふる号」で立体迷路や廃材遊具など、遊び心をくすぐる多彩な遊び道具を運び、団地内の通路を遊び場にするイベントです。

ここでは、すみだの有志によるお弁当の配布や食事の場を提供する「地域食堂こだち」、自治会が企画する「花そだてワークショップ」、社会福祉協議会が実施する「なんでも相談室」なども同時開催されています。小さなイベントですが、団地だけでなくその周辺で暮らす人も訪れるようになり、幅広い年齢層の人たちが楽しむ光景が生まれています。

「子どもたちから『ベーゴマのおじいちゃん』と親しまれる町会長は、昔遊びとしてベーゴマを子どもたちに教えていて、世代間交流も生まれています」と嬉しそうに語る須藤さん。

「遊ぶ場を通して同じ時間を共有すると自然と交流が生まれ、その後、団地内でも日常的に挨拶をし合う関係が育まれています。顔が見える関係ができるような場を届けていきたいですね」

子どもの遊び場づくりから、子育ての孤立解消や新旧住民交流などにも寄与しているのです。

ほかにも、特定非営利活動法人Chance For All、千葉大学 環境デザイン研究室、Seki Design Lab.と共にSSKも参画しているプロジェクト「あそび大学」もSSKを象徴する活動のひとつです。「すみだの子どもたちの遊び場の環境を良くしたい」と集まった4者が、下町の町工場からもらう素材を活用して、子どもたちが自由に遊べる場をつくるプロジェクト。「からふる号」や墨田区ジュニア・リーダーの卒業生たちがイベント運営をサポートするなど活躍をしています。

現代は子どもが子どもらしく遊べる場所を探すのが難しい社会になってきているかもしれません。「遊び」は、自発性や主体性のあるものであり、その体験から学び、成長をしていくことで、社会を生き抜いていく基礎となるものを得られるようになります。

SSKは、現代に合った遊びの場を単独だけでなく、さまざまな人たちと協働でつくりだしています。

「半日常」を届ける

「SSKは日常と非日常の間にある『半日常』の空間をたくさんつくっていきたい」と須藤さんは今後について話します。

「私たちは日々の中で、非日常と日常を往復しながら生きていると思うんです。例えば、自宅のお風呂は日常で、温泉は非日常の体験とすると、銭湯はその中間的な体験として『半日常』になるのではないかと思っています」 須藤さんたちが展開するキャンプは、非日常を担う部分だと考えています。キャンプという非日常体験の中に、日常につながるエッセンスを散りばめることで、子どもたちの新たな一面を引き出したり、学びを与えたりしています。

例年、12月26日から28日にかけて2泊3日のキャンプが実施されています。初日は自己紹介後にゲームで参加者同士の交流を深め、チームに別れてポイントとなるスポットを巡りながら2泊3日を過ごす食材探しをするミッションが与えられます。2日目の夜にはパーティーをするために、メイン料理を作る指令も出されます。

「2日目の夜のパーティーのメイン料理は実に多彩です。ブロック肉や丸鶏で豪快な肉料理を作るグループや参鶏湯のような鍋料理をつくるグループもあります」と料理ひとつで、子どもたちのさまざまな創造性を見られることを喜ぶ須藤さん。

キャンプという非日常の体験を通して、子ども一人ひとりが学校とはまた違った一面を見せることもあるのだと言います。

「例えば学校ではあまり周囲に意見を主張するタイプではない子どもが、キャンプの時になると積極的に発言をしたり、場を引っ張っていくような振る舞いをしたりします。普段やらないようなことを、普段一緒にいない人たちとカタチにするという体験によって、学校でのポジションと異なる振る舞いをする子どももいるんです」

SSKは非日常と日常がつながる半日常の場を創出することで、子どもたちが自由に成長していくことを後押ししているのです。

移動式遊び場について、SSKは全国にネットワークができたことでご縁がつながり、江戸川区や埼玉・越谷市のプレーパークに「からふる号」の出張が決まっていたり、八王子や茨城県の方たちとの交流機会があったりと、共に子どもたちの遊び環境をつくろうと切磋琢磨する仲間が増えてきました。区外での活動へと広がりも見せています。

「からふる号」を中心に街中のいろんな場所で遊びを豊かにする取り組みは、これからますます広がっていくことでしょう。「移動式でやらなくてもよいくらいに遊びが豊かになるようにしていきたい」と力強く話す須藤さん。

これからも子どもたちと一緒に遊びの場をアップデートしながら、次世代の子どもたちの成長の機会をつくっていこうとしています。

※1 すみだの夢応援助成事業:「地域を盛り上げたい」「地域の困りごとを解決したい」「新しいことにチャレンジしたい」という地域を元気にする活動(すみだの夢)を応援する制度。決められた金額が交付される一般の助成金とは異なり、区が提供するクラウドファンディングの機会を活用し、そこで集めた寄付金が助成金として交付される

※2 One SUMIDA Project:墨田区立花地区・文花地区を中心とした、地域に関わる有志を主体とする高齢者や子育て世帯の孤立防止、見守り強化活動